香月とアズサの目線が絡む。
「あんたが仕組んでいた…と考えれば、全部につじつまがあう。
あんたが持ってきたネタ…あんたが鉄線のない部分を見つけた…そしてあんたは二階にあたし達を導いて、あらかじめ決めていた部屋にくると躊躇なく入り込んだ。
あんたにとって、予定外だったのは…亮を誘ったことだったんじゃないの…?」
アズサが笑った。
「亮はいてもいなくても良かった。でもどっちにしろ雅也は…」
香月は頷いた。
「殺すつもりだった…」
アズサはニッコリした。「さすが!」
「そして、今度こそ、あんたの作り上げたこの箱のなかで雅也は死んでるんでしょう?…その体中に着いた血は本物の雅也の血ね?」
アズサは耐え切れないくらい馬鹿馬鹿しい冗談を聞かされた教師のように鋭い眼差しで、香月を射抜いた。
「あんたがこんなに頭が回るって解ってたらもっとシンプルな案にしたのに…ま、当たってる。
あたしはね…毎日毎日付き纏う雅也が欝陶しくて堪らなかった。
あたしが付き合うって言う前からずっとあいつはあたしのストーカーだったのよ。…正直、せいせいしたわ」
香月はキッとアズサを睨み付けた。
「何でよ…何でなの?アズサ!あたしはあんたの…友達じゃないの?
あたしまで、殺そうとしている…あんたは」
アズサはゆったり微笑んだ。
「あたしまで?何言ってるの?あたしの本当のターゲットは…あんたなのに」
香月は息を呑んだ。
「あんたは…あたしの何より大事なものを奪った…亮は、あたしのもの。誰にも渡さない」
アズサは憎しみが滲み出るような毒を含んだ声で続ける。
「しかもあんたは、あたしの親が水商売をやってること、馬鹿にしていた…毎度、毎度厭味たらしく部屋が散らかってることに驚いて。揚げ句にあんな家に、亮を誘ったりして。大嫌い。嫌い。あんたが嫌いなのよ」
自分を抑えるように、血だらけの体を両腕が締め付ける。
「雅也が公園で、みんな知ってるって言った時、ドキっとした。だって自分を殺そうとしてるって知ってるなんて。でもね…あいつ、馬鹿なの。ターゲットは香月だけだと思って、協力するなんて言ってさ。下調べしてるあたしを見て、気付いたんだって」