無我夢中で走っていた。真っ暗な夜の暗闇が支配している月明かりのない夜。
森を通り抜け何処ともわからない街中を走っていた。
行き交う車、人波が軽蔑するかのような視線を彼に投げる。
服は入院患者用の物だったが既にその色は黒く、切り刻まれていた。
「はぁっはぁっはぁっ…」
どれくらい走り続けていただろうか…。
不思議と疲労感は感じなかった。
…ただ…いくら走っていてもマヤの足音は離れない。
そして切られた身体もすでに何事もなかったかのように治っていた。
ゴミ箱を散らしながら細い裏路地に入り息を整える。
整えるのにものの数秒で事足りた。
「なんなんだよ…!?マヤは一体どうしちまったんだ!?それに…俺の身体はなんなんだよ!?」
彼は目の前の壁を強打した。
壁には拳大の穴が穿たれ…そして彼は痛みを感じなかった…。
カリッ…
奇妙な音を聞くとともに上を見上げるとマヤが飛び降りながら右腕を振りかざしていた。
「うっ…うわぁぁぁっ」
思わず右腕を振りかざした瞬間…彼は1番不思議な物を目撃した…。
彼の右腕に開いた点滴接続用の穴と言われた箇所…その中から真っ黒の伊藤のような物が延びて彼の右腕に巻き付く…。
ガキィッン
マヤの振り抜いた剣は彼の黒くなった右腕にその刃を止められていた。
そのままマヤの剣を振り払いまた彼は走り出す。
「マヤ。ストップだ」
ビルの雑踏の中から全身黒いいで立ちのスーツ姿の男が現れる。
「マヤ…殺し合ぃ…する…の…」
そう言いながら気絶したかのようにマヤは崩れ落ちた。
スーツの男は携帯を取り出す。
「私だ。…の調整はまだ…本能の…急ぎ回収班をよこせ。」
電話が終わるとその男はまた人波の中に消えていった…。
…………………
彼はビルの隙間に座り込み黒ずんだ腕を見る…。
これは…義手か…?
今の技術で温度や触感がある義手なんて作れるのか?
…今の技術で作れるはずがない…。
なんなんだ…。
目覚めてからのこの1ヶ月を思い返してみる…。
あの入院生活に特におかしなことはない…。
ただ…目覚めるまでの過去は…いくら考えてもわからない…。
「過去を知りたいなら一緒に来なさい。」
不意に声が聞こえた方に振り向くとそこにいたのは桑原と呼ばれた女医だった。