俺と一三雄大は呼び寄せたタクシーに乗ってマンションを離れた。
もちろん俺の手にはカップラーメンが、雄大の手には《ユカリちゃん》が大事に握られていた。
雄大のマンションまでそこからさして遠くなかった。
精々20分位だ。
一三雄大は実家が裕福らしく、俺と似たりよったりの暮らしをしているにもかかわらず、親からの仕送りのお陰で使える金は一桁違う。
その大半をヤツはフィギュアに費やしていた。
『うわあ―すげえ』
三階のヤツのすみかは一部屋まるまるフィギュア置き場、いや、展示場に当てられていたのは知っていたが、その数は更に倍増し、リビング兼寝室にまで溢れたアニメキャラやアイドルの似姿が様々なポーズや服装で我々を迎えた。
一三雄大はリビングに入ると早速《ユカリちゃん》の手入れを始めた。
『ラ、ラーメン』
事の経緯を説明しようと、フローリングに敷かれたカーペットに座りながら俺はおずおずと説明しようとしたが―\r
『ん?ああ、知ってるさ』
フィギュア専用部屋から小さなケースを持って来たヤツは、蓋を開いて中にびっしりと詰まる無数の衣装をゆっくりと吟味し出した。
『ラーメンホルダーなんだろ?』
『あ、ああ、そうだ』
俺はうなずいた。
『お陰で部屋は壊されるわ傭兵だのサイボーグだのは出てくるわ―』
だがヤツは聞いていない!
『よし、これで完璧だ!』
歓喜の声とともにテーブルにヤツが置いたのは―\r
紅い袴の巫女姿になった《ユカリちゃん》だった。
しかも、彼女の両手にはほうきが可愛らしく握られている!
そしてそれを眺めてヤツは実にご満悦だった。
『さ、さ、さ―最高だあぁ』
おいおい。
ヨダレ垂らすなよ―\r
『と、とにかく俺は追われてるんだ』
気を取り直して俺は窮状を訴えた。
『このままじゃ命すら危ない』
そうだ。
一昔前までありふれた食べ物に過ぎなかった筈のインスタントラーメンたった一つのせいで―\r
だが、一三雄大は不思議なまでに冷静だった。
『なに、しばらくここでほとぼりを冷ませば良いさ―俺は《ユカリちゃん》と居れたらそれだけで良い』