* * * * * *
電車を降り、バスに乗ること十分、徒歩三分程で、自宅に着く事が出来る。
玄関のドアを開け、リビングへ向かうと、母は僕が帰宅した事に気付き、いつもの通り、食事の用意をしてくれる。
僕より若干早く帰宅する父は、相変わらず口数は少なく、ダイニングの椅子に座り、夕刊片手にTVのナイター中継に夢中になっている。
『未來。昨夜は外泊かい?!あんた、彼女でも出来たのかい?!』
母がニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。
『そんなんじゃないよ。』
全く。おめでたい頭をした母を持つと苦労をする。
『なぁに、母さんに隠したって駄目よ。あんたの顔見たら分かるわ、そんなの。ねぇ父さん?!』
母は、尚もニヤニヤしながら、今度はTVのナイター中継を見ている父にまで同意を求める。
『あ?!母さん、ちょっと黙っててくれよ!!今いいとこなんだ!!おっ!!今日もダルビッシュ調子がいいぞ。完封だ!!』
父は、日ハムの大ファンだ。まぁ‥北海道が本拠地になってからというのが本当の所だが。
『父さん。毎日野球ばかり見るのやめてちょうだいよ。他の番組が見られないじゃないの。』
あ〜あ。また始まったか。でもまぁ、ここは僕の話題からTVのチャンネル争いに、話の流れが変わってくれてラッキーと思う事にしよう。
あぁ、それにしても僕の両親は本当におめでたい人達だ。
『未來!!彼女が出来たのなら、逃げられない様に気をつけな!!
あんたは女心が分からんから駄目なの!!
恋愛の事なら母さんに何でも聞きなさい。
いいアドバイスしてやるから!!』
タヌキの様にパンパンに迫り出している腹を叩きながら母が言った。
言っておくが、決して妊娠している訳ではない。ただのメタボリック症候群に因るものだ。まぁ妊娠が可能な年齢は、もうとっくの昔に過ぎ去ってしまっているのだろうけど。
『未來。父さんにも何でも言いなさい。相談に乗ってあげるから。』
父は、鼻くそをほじりながら、頼りなさげに言った。
『ありがとう。』
一応そう言ってはみたが、間違っても両親にだけは、恋愛の相談はする事はないだろう。
僕は適当に愛想笑いをして、その場を切り抜けた。