僕が先日、咲季に教えた二十四歳という年令は、(実の所)かなりサバをよんだものである。
妻の薫もその「大ウソ」に吹き出していたが、次に花の館を訪れた時、僕の呼び方が改まっていた。
『あ、お兄さんお姉さん』
「あはは、有難う。冗談だったのに信じてくれて」
「うふふっ、本当は、 …ナイショにしとくわね」
少女の幽霊は、いつもの様に猫たち相手にピアノを弾いていたところだ。
僕と薫の笑顔に、二コッとほほ笑みを返してきた咲季。
今宵は【ポロネーズ第六番】(英雄ポロネーズ)を演奏してくれるみたいだ。
ピン、と張り詰めた独特のリズムを刻み続ける低音部に、華やかで印象的なメロディーが軽快に乗る。
聴き入っていると、不意に何か情景が浮かび上がってきた。
軽快なギャロップで目前を駆け抜ける騎馬隊の列。
遥か彼方から響いてくるファンファーレ…
そのイメージは、演奏の終了とともにゆっくりと消えていった。
咲季の奏でる音は映像をも聴き手に伝えていく様で、いつも不思議な雰囲気に包まれる。
それから数日経って、花の館(小村邸)にちょっとした変化が訪れた。
それは、僕達にとっても思いがけない事に発展していくのだった。