桑原の車に乗り込み街から程遠い場所にある小屋へ招かれる。
ぱっと見外見は朽ち果てたボロ小屋といった感じだった。
その小屋の隣にある馬小屋のような建物の中へ車を停車させる。
彼は不思議な顔をしながら車内や建物に交互に目を向けていた。
「心配いらないわ。」
そう彼を諭すと桑原は車のハンドルに付いているカバーを開け中のスイッチを押す。
ウィィィ…
僅かに唸るような音を立てながら車ごと景色が下がって行く。
「エレベーター…?」
「そうよ。ここなら組織も知らないから比較的安全と言えるわ。」
桑原は彼に笑みを送りながら話しを続ける。
「あなたは自分のことどこまでわかってる?」
自分のこと…聞かれながらも彼は笑うしかなかった。
「自分のことね…あんたは俺が何物で何なのか知ってるんだろ?」
普段の状態へ戻った腕を見ながらそう答える。
「貴方の全てを知ってる訳じゃないけど…、まぁ今の貴方よりはわかっているつもりよ。」
車を乗せたままのエレベーターが停止すると桑原は車から下りて部屋の奥の扉へと進み始める。
「私の知ってることでよければ教えてあげる。着いてきて。」
そういって彼女は扉の向こうへと消えて行った。
……………
恐らく地下であろう施設は思ったよりもしっかりとした作りに最新鋭ね器材が揃っているように見えた。
「あんた1人なのか?」
この広い施設に1人とは考えにくい。
だがさっきから人の気配がしないのもまた事実だった。
「そうね。今は1人になってしまったわ。」
そういって1番奥の部屋にたどり着くと桑原は着ていたコートを椅子に投げ出す。
「適当に座ってて、コーヒーは砂糖とミルクは?」
「いや…。」
「そう、ちょっと待っててね。」
そういうと奥の方からコーヒーの臭いが漂ってくる。
その臭いには妙に懐かしさを感じた。
辺りを見回してみる…、先程までのいかにも研究所といった雰囲気から掛け離れ裕福な家庭の書斎といった感じだった。
部屋の広さは全然違うだろうが…
「お待たせ。」
そういいながら桑原はトレイにコーヒーとグラスを乗せて戻ってきた。
コーヒーを渡すと自分のグラスは氷を入れウィスキーをグラスに注ぐ。
軽くウィスキーで喉を潤してから、
「何から知りたい?」
と言った。