朝の陳列を終え、昼の前にふと、客足の途切れる時がある。
その日もそんなぽっかりと空いた時間があった。
つば広の帽子をかぶった初老の女性は、弟切草の花を手にして食料品をレジに持ってきた。
「まぁ綺麗、どこかで摘んでらしたんですか」
「ええ、生け花をしているのでつい生けてみたくて採ったの…内緒よ」
その女性は帽子の下で、悪戯を叱られた少女の様にシュンとして見せた。
無造作に包まれた広告の紙から、瑞々しい紙細工の様な花弁が鮮やかな黄色に輝き、零れ出していた。
彼女は会計を済ませると、柔らかな日差しから移り変わる夏の光へ歩み出して行った。
「弟切草が咲いたらもう夏至ですね」
声をかけると彼女は光の中で微笑み、手を振った。
その日の仕事を終え、疲れた目線を落として帰る私は、歩道まで溢れる弟切草の植え込みを道に見つけた。
彼女はここで花を摘んだのだろうか。
だとしたら彼女も私と同じ様に下を見て歩いていたに違いない。
下を見て歩く者にしか分からない幸せもあるのだな。花弁に触れながら、ふとそう思った。
その花は夏の光の様に輝いて、夕暮れに沈む私の足元を黄金色に照らしていた。