優子は、手帳の中の橋本麻里奈を見つめながら、携帯を取り出した。
「何するの?」
男は聞く。
「警察に連絡するんです。」
優子はなんの戸惑いもなく、警察の番号を打つ。
「ふーん。」
男はそう言うと、再びオレンジジュースを飲みはじめた。
優子は外に出て、携帯を耳にあてた。
「・・・・」
今聞こえるのは、呼び出し音と、自分の息を吐く音のはずだった。
「・・・ゅぅ・・・」
確かに聞こえた。誰かの声だった。
「え?」
ザッザザザッ
携帯のノイズの音が激しくなり、
「ゆ、うこ・・・」
・・・!!!
思わず携帯を閉めた。
今、誰かの声が、した・・・
恐る恐るまた、携帯に耳をつける。
すると、張りのある、警官の声がした。
どうやら今のは幻聴だったようだ。
まだバクバクする心臓を落ち着かせ、優子はアパートでの事を話した。
「あ、優子ちゃん。遅かったね。」
何故か男は、他のジュースを飲んでいた。
また新しく注文したのだろう。
優子はよろよろとした歩きで、「帰りますね」とだけ言って、席を立とうとした。
「あ、そうだ。あと優子ちゃんって呼ぶの恥ずかしいからやめてくださいね。」
と優子は言って店を出た。
「バイバイ。」
男は、優子に向かって手を振った。
だが、優子は振り返すことはなかった。
「・・・?」
何かが、男の手に触れた。見ると、さっき優子が開いていた手帳だった。
「あ、麻里奈だ。」
手帳を開くと、麻里奈と優子の写ったプリクラが貼ってあった。
手帳の中の二人は、幸せそうに笑っていた。
麻里奈の事を思い出し、男は悲しくなった。