優子は、帰りに、ファミレスで電話をした警察署によることにした。
もう辺りは暗くなっており、警察署の窓から覗く明かりがよく映えてみえた。
「失礼します・・・」
警察署の、見張り警官は、「おや」という顔をすると、優子に駆け寄って来た。
「どうかしましたか?」
優子は、さっきこちらに電話をした者ですがと、橋本のアパートに放棄してあった死体について話した。
それを聞いた警官は、急いで署長にと連絡をした。
優子は、近くにあった椅子に座ると、あることに気がついた。
「あれ・・・?」
いくら、バックの中を探っても、無い。
唯一の橋本との思い出が詰まった、手帳が無くなっていた。
「うそ・・・!」
優子は、その場でうなだれ、はぁと溜息をついた。
「佐藤さん?気分が悪いのですか?」
そこには、五十代くらいだろうか、署長らしき男が立っていた。
「あの、橋本麻里奈についての件ですが・・・」
署長は紙を見ながら説明する。
「明日から捜査に取り掛かるつもりです。」
優子は、恐ろしくなった。
もしかしたら今頃、橋本が誘拐されて、森や山で埋められているのではないかと思ったのだ。
「明日からですか。今からって無理なんですか?」
優子は、署長に無理を言っているのを分かっていた。
しかし、橋本が心配で仕方なかったのだ。
「うん、心配なのは分かります。しかし、今は落ち着いて下さいね。きっと犯人を見つけてみせます。」
署長は、優子を励ましたが、今の優子には、どんな言葉も耳に入っていなかった。
「じゃあ電話番号を。あと、ご両親にも連絡を入れておきますね。」
若い警官が、紙に電話番号を書きながら言った。
しかし、優子は皆に橋本の事を知られるのを拒み、「やめてください」とだけいい、警察署を立ち去った。