『この地に生まれ出ずる全ての命の重みより、この愛は重く深く尽きることはないと誓う』
熱く真っ赤に煮えたぎる地を見下ろして、天と地に響き渡る声が頭の奥にこだまする。
切ないような、泣きたいような懐かしい思いに胸が締め付けられる。
「待って!置いて行かないで!」
そう叫んだ自分の声の大きさに、瑠璃は何が何だか分からないまま、驚いてキョロキョロと辺りを見回した。
見飽きた自分の部屋の薄暗い空間に、何一つも変わりがない事は、すぐにわかる。
「なんだ…。夢か!」
瑠璃は、わざと声に出す事で、夢を見ていたのだ、と自分に言い聞かせていた。
ショートスリーパーで熟睡型であるが故に、普段は夢など全く記憶に残らない。
目が覚めた瞬間に頭が切り替わるらしく、睡眠中の世界から未練なく、覚醒した現実に意識が向いてしまうのだ。
そんな瑠璃にとって、確かに目覚めて朝の気配を分析しているいつもの自分の他に、もう一人、繰り返しこだまする声に涙する自分がいるのは、にわかに信じられない事でもあった。
『この愛は…』というフレーズが、瑠璃の胸をなおいっそう揺さぶっている。
「いやだ。私ってこんなにも感傷的だった?」
頭を2、3度ブルブルッと振ってベッドから下り、白いお気に入りのドレッサーの鏡の前に立つ。
そこに映った姿を見て、初めて自分は泣いていたのだと気が付いた。
と、同時に胸の奥が激しく軋んでいるのを感じた。
そして、込み上げて来るものを抑えきれずに、大声でしゃくり上げる。
その込み上げて来るものは自分のものなのに、『自分のものじゃない』と、必死で打ち消そうとしている事が、不思議でならなかった。
「どうしたの?瑠璃…。あの赤い大地が、こんなに懐かしくてたまらないなんて!…あれは、夢じゃない。一体どんな意味があるというのよ。
…夢よ!
ただの夢…。」
ふと目を移した窓から、霊峰といわれる、不忍山郡の尾根がうっすらと見える。
この時の瑠璃には、悠久の時とともに刻まれた、確かに息づくものの姿は、その影さえ感じられなかった。
夜明けまで、そう遠くはない…。