グラジア島の中央に位置するノルマルという村の近辺には、古の怪物が多く棲みついているという。といっても、グラジア島にはこの村以外に人間はいないし、グラジア島に入った人間は一人として帰った者はいないので、怪物の存在を裏付ける物は何もないのだが…
ノルマルの村に、ユンバという青年がいた。ユンバは、十二の時に父親を怪物に殺され、人一倍怪物達には恐怖心を持っていた。
特に、父親を一瞬で八つ裂きにした四本角の獣【クワトケロス】については、名前を聞くだけで震え上がってしまう程だった。
この村の男は皆猟師を生業としているため、ユンバ程の年齢になれば、クワトケロス程度の中型の獣を狩猟出来なければ話にならない。クワトケロスは群ではなく単独で行動するため、油断さえしなければさほど苦労する相手ではないのだが…
ユンバの父親は、偶然発情期の凶暴な雄、それも、「テンペスタ」という別名をもつ非常に危険な個体と出くわしてしまったため、命を落としたのだ。一緒に狩りの訓練に来ていたユンバは、その光景を物影から目撃し、トラウマになってしまったのだ。
ユンバは、猟師にこそなったが、同世代の猟師が大型獣に挑む一方で、来る日も来る日も大人しい草食獣を狩る空しい毎日を送っていた。