雨の日に

もね  2008-06-22投稿
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その老女は腰の曲がった姿で緋毛氈の敷かれたベンチに腰掛けていた。
一通り会計も商品のお勧めも終わったのか、他の店員の姿は付近に無かった。
「もうお茶飲みましたか」私は話し掛けた。試飲のお茶を出しているのだ。
雨が降る今日はお客も入らず、売上への焦りもあったが、ゆったりと接客したい気持ちにもなっていた。
「あら!私の口に入ってるのは何?なかなか奥に入っていかない」急に驚いた様に彼女は声を上げた。
モグモグ口を動かし、「何だか柔らかい」と言う。
直ぐに私は答えた。「それは蒟蒻じゃないかしら?」
目の前に並んだ試食の中に蒟蒻があったからだ。
彼女は蒟蒻の切れ端を飲み込み、話を始めた。
「雨が降るとお客さん来なくて辛いよね。私も昔商売してたから良く分かるよ」
「何の商売していたんですか?」
「んー出店みたいな店。糸とか繊維製品売ってたの」
途端に私は、今91歳と言う乱れた白髪の彼女が、働き盛りの頃、若々しく黒髪をまとめてもんぺ姿でテキパキと働く所を想像した。
無数の会計と無数のお客と話し、無数の「お客の来ない日」を経験したに違いない。昔の女性はきっと皆働き者だから。
そんな想像をする私に唐突に彼女は言った。



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