感情のままに泣き、ただ彼女の胸でこれから待ち受ける悲しい現実を受け入れるために平常心を保つ準備をした。彼女は無言でそれを許した。
そんな思いが瞬時に頭をよぎった。
僕は馬鹿だった。とてつもなく。彼女は、また我慢をしていた。あの時だって本心は僕に19回目の誕生日を祝って欲しかったはずだ。そして今回は、僕が未だに立ち直れないあの辛い経験を彼女もことごとく味わおうとしていたのだ。
あの出来事で僕は知っていた。愛するひとの生と死は表裏一体なんだと。大好きなじいちゃんが死にその次の日が愛する彼女の誕生日になるなんて死神と天使は、おそらく仲が悪いのだと肌で感じた。そんな複雑な記念日の繰り返しの中で人は、生きていかなければならないんだろう。
「お前には俺がどんだけ大変か。どんだけ辛いかわからんのんや。ほんまもうええわ。」
こんなことを口走った言った僕は、どんだけ馬鹿だったんだろう。
相手を想いだからこそ言葉にしない彼女とそれを察することができない自分。
虚無感と後悔が垂れ籠める真っ暗な海の中で浮力を失った船が沈んでいくような感覚が僕の身体に付きまとっていた。