「二度とは経験出来ない【青春】という貴重な時期を、この稜星館高校で仲間と共に学び、仲間と共に泣いたり笑ったり、かけがえのない思い出をたくさん作って下さい。
辛くても苦しくても、また、嬉しくても楽しくても、分かち合い支え合う仲間がいる事が、どんなに素晴らしいか、身を以って感じて欲しいと思い………」
長い校長挨拶に、新入生一同が飽きて来た頃だった。
ズズッ!ズズズ〜ッ!!!っと、辺り構わず鼻をすすり上げたのは、他でもない容子である。
この稜星館高校を受験するにあたって、退路を断って自分を追い込むために、すべり止め用の受験を一つもしなかった。
落ちたら、高校浪人をするしかない状況の中で、容子はわきめも振らず、受験勉強に取り組んで来たのだ。
それもこれも、大親友の瑠璃と同じ高校に通いたい一心であった。
自分以外の人には、『無謀な挑戦』だと思われていたから、こうして入学式に瑠璃と共に出席出来ているだけで、感無量になり胸が詰まるのだった。
「容子、ほらティッシュだよ。」
瑠璃が、そっとポケットティッシュを手渡した。
「あびがど…。」
容子は受け取ると、周りにはお構いなしに、ブビーッっと鼻を噛む。
周り中のクスクスという失笑も、容子には気にならないらしい。
新入生の横に、一列に陣取った教師達の中から、「コホン!」という咳ばらいが聞こえて、ザワつきは一瞬で静まった。
ただ、容子のグスッ!ズズズ…!という、鼻をすする音だけは、式典の終わりまで止むことはなかった。
高校生活は、二人にとって何もかもが目新しく、大きく膨らむ好奇心には、刺激的な毎日だった。
勉強は、進学校らしくそれなりにハードだったが、ガツガツしたイメージがないせいか、皆、楽しんでいるようにさえ見える。
中でも、瑠璃や容子が興味津々で目を輝かせていたのは、クラブ活動だった。
静かなイメージの割には、体を動かす事が大好きな瑠璃と、ノリは体育会系なのにスポーツという柄ではない容子は、クラブ活動だけは別々の選択をする事になった。
進学校の稜星館高校は、勉強だけでなく、クラブ活動にも相当の力をいれていた。
体育会系のクラブも文科系のクラブも、実績のある実力派クラブが名を連ねていた。
毎日のように、じっくりと見学を重ねる瑠璃だったが、最終的に二つに絞り迷っていた。