雨の日に2

もね  2008-06-24投稿
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「私一人は嫌い」
拗ねた様な言い回しが可笑しかった。
「私家に帰ったら一人なの」
「お一人暮らしなんですか?」
「ううん、息子と暮らしてる。今何時?」
「二時過ぎですよ」
「息子が帰って来るまで…」
指を折って数えている。
「あと四時間もある」
私はやっと話が見えた安堵と、彼女のいじらしさに思わず笑みを零しそうになった。
彼女の息子さんなら定年近い年齢だろうか。高齢の母と二人で苦労も多いだろう。
でもそんな母は若い時分糸を売り自分を育て、そして今は心細さに自分の帰り時間を指折り数えているのだ。
しばらく彼女はベンチでぼうっと過ごしていた。
いつの間にか雨は小降りになり、私がもう一杯のお茶を勧めようと思う頃、彼女は幾度も立ち上がる動作を繰り返し、やっと成功した。
「さぁ帰ろう」
杖を頼りにどうも真っ直ぐとは言えない歩を商店街へと進めた。彼女は一心に前を見て振り向く事は無かった。
「ありがとうございます」
そう呼び掛けた背中を見ながら、私は彼女を自分の祖母と重ね合わせた。少女の様ないじらしさが晩年の祖母に似ていて切なかった。
必死な健気さと、飄々とした強さを併せ持つその姿は、ゆっくりと雨上がりの人波に消えて行った。

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