車の中は、むっとする暑さだった。
男は、じっと私を見つめている。気持ちが悪い、と思ったが、男の様子を見て、はっ、と気づいた。男は言葉を選んでいたのだ。
いちいち考えなければ、話すことができない、…つまり、日本語がうまく話せないのだ。
「僕は、梁(ヤン)といいます。広州から来ました。大学で、勉強するために。先月、炎が僕のところに来ました」
男の、途切れ途切れな話し方に不気味さを感じていた私は、その理由がわかると、途端に安心できた。
「なんで、これは私や、あなたのところにいるの?」梁は、首を振った。残念、とでも言わんばかりに。
「炎は、死神です。僕らは、彼らを消さなければ、死んでしまう」
私は、手を頭にやり、しばし考えた。死ぬ?…死ぬ?なぜそんなことにならなければならないのだ。
「信じられない?」
男に言われ、私はますます混乱する。信じる?信じない?私は自問自答した。
「信じるよ」
私は言った。それが、結論だった。この火の玉に、それくらいの力が備わっていたとしても、全く不思議とは思えない。
「この火の玉、おれの街から来た。おれの街には、これの伝説があって、みんなこれのこと知ってる」
「どういう伝説?」
「明と清が争っていた頃、戦争に巻き込まれて、残酷な殺され方をした5人の女が、恨みをもって、火の玉になった。火の玉は30年に一度、現れて、憑り依いた相手を殺す」
「どうして、それが、私なんかに?」
梁は首を振った。とても残念そうに。
「分からない」
「ねぇ、私にはふたつ、付いてるけど、ふたつ炎があると、どういう事が起きるの?」
梁はまた首を振る。
「分からない。分かることは、この炎に憑かれた人が、あとふたり、いること。残りのふたりを、早く探さないと、手遅れになること」
「5つの炎を、集めるんだね」
梁は頷く。
「とにかく、集まらないと、何も出来ない。集めると、炎の中の怨念が浄化されて、死なずに済む」
「分かった」
私は梁を、全面的に信じることにした。ほかに、どうすることもできなかった。
「探しましょう」
梁に言われ、私は頷く。