高々とそびえ立ち、吹雪を身に纏い、荒れ狂い急斜な地面。要するに、雪山である。だが、雪山と言ってもただの雪山ではない。獲物を求める、獰猛な獣がウジャウジャいるのだ。例えば簡単に言えば狼などだが、必ずしもそれが《獣》だとは言い切れない…。
そんな雪山の麓あたりに、一人の少年が歩いていた。いや、登っていたと言った方が正しいだろう。髪はかなり濃いめの茶色で、どちらかと言うと黒と言った方がピンとくる色である。目も、それと全くと言っていいほど同じ色である。服装は、あったかそうなしかの毛皮で出来た上下セットの服を着ていた。登山用である。靴も、しかの革靴を履いていた。年齢は、15ぐらいだろうか。とても生き生きとした美貌をしている。
少年は、雪山の山頂付近にある、一つの小屋を目指していた。今、ちょうど七合目辺りに来た所だった。今までは、運良く《獣》に一匹も遭わずにすんでいたので、ここまで無事に来れた。だが、ここからはそうはいかないだろうと少年は感じていた。何の経験の無い少年の体でも、危険信号を発している。だが、少年の体は動かなかった。目の前の《獣》に、目を奪われてしまっていたのである。