優子は、驚きと恐怖に腰を抜かしながらも男の方へと床に膝をつきながら駆け寄った。
「血が・・・お腹、痛いでしょ?早く傷口ふさがなきゃ!」
優子は泣きながら男に話しかける。
男は苦痛に歪んだ顔で優子を見上げた。
「痛い・・・苦し・・・」
こんなの初めてだ。この男は弱みなんか一度もこんな事を言ったことはない。ここは危険だ。私が守らなければ。
優子は立ち上がり、男を刺した人間を見返した。
「なんでこんなことするの麻里奈・・・」
そう。彼を刺した人間は橋本麻里奈だったのだ。
その時優子の頭に嫌な予感が入り込んできた。
「・・・もしかして麻里奈のアパートにあった死体って麻里奈が殺した人達なの?」
優子は血のついた自分の手を握りながら、言った。
「うん。だって皆死体処理するのに邪魔だったから。」
橋本は人を殺そうが刺そうが、何の罪悪感も感じていないらしく、当たり前の様に答えた。
「麻里奈・・・」
優子は、親友に裏切られた絶望に涙も出なくなっていた。
麻里奈。私信じてたんだよ?
麻里奈は人殺しなんかしないって。
いつも皆と笑ってて、すごい明るい人だと思ってた。
だけど、どうも今は私がいつも見てた麻里奈じゃないみたい。
なんで?
気が付けば、橋本は、優子の前にいた。
「私のアパートの死体の事、警察に言ったでしょ?親友なら約束守ろうね。」
そう言い、橋本は鼻で笑うと無理矢理包丁を男の腹から抜き取った。
そうだね。私、最悪だ。昔から私達、自分たちの秘密は絶対人に言っちゃダメだって約束してたね。
そして、その約束を破ったら、もう友達をやめる。
麻里奈と友達になってもう14年経った。そして、私は麻里奈に殺される。
約束破ったら、友達をやめる。
今、その意味が分かった。
「優子とはもう絶交。」
橋本は血の付いた包丁を優子の腹に突き立てた。
意識を手放す前に、子供の泣き声と男の唸り声が聞こえた。
そして映像が浮かび上がってきた。
子供が泣いている。その横で、その子供の父親らしき男が、何かを刺していた。
人形。
人形というよりも、マスコットに近い人形だ。男は、人形をバラバラにすると、子供の方に人形をなげすてた。
男の手から離れて行く人形。人形の表情は、笑っていた。まるで、さっき刺された男を連想させるような表情だった。