瞳から零れた血の涙を藤堂の気付く前に拭きとるのは不可能だった。
それは陶製の肌に染み込み拭いても拭いても薄い痕を残した。
この事実を知った藤堂の動揺は凄まじかった。
体中を震わせ、人形から逃げるように自室に篭ってしまったのだ。
これにはメイド達も首を傾げた。
激しい叱責を覚悟していた竹内でさえ、二、三のメイド達と囁き交わした程だった。
屋敷内においてただ一人…乙部美樹だけは主のその反応を冷静に見つめていた。
誰も近寄ることさえ憚られる藤堂の自室の前に、美樹はいた。
静かに戸を回す。
鍵はかかってはいない。メイドの誰一人として許しなく部屋に入るなど決してないためだ。
僅かな音に反応して、小さな声が響いた。
「マリアか…」
「違います」
はっとソファから身を起こし、信じられぬものを見たように目を見開かせた。
「なぜここに…」
「お聞きしたいことがあるのです。マリア様が私にお尋ねになられたので…」
藤堂の両目を、いま、確かに恐怖の光が走った。
言葉ないまま美樹は主のもとへ赴き、ソファに身を沈めたままの男を見下ろした。
「なにを尋ねたい」
美樹は薄い笑いを浮かべた。
「なぜ、私を殺めたのですか…と」