「ハル、ハル!しっかりして」
「っ痛―――ッ」
どれくらい寝ていたのか、レベッカとアキに揺り起こされて目を覚ました。
ニューヨーク市内はひどい有様だった。
東京事変の時より出力を下げたのか所々で人の気配がする。
ただ、ある者は瓦礫に頭を挟まれてなお死に切れず、またある者は太陽光が生み出した熱風に肺を焼かれ、もがき、悶え、しかし死ねない。
地獄。
あの晩、アキと出会ったあの白い雪の降りしきるあの晩に、全てを吹き飛ばした赤い[光]
「アキ、レベッカ……あおかぜに戻ろう」
「え?」
遠くを見つめながら、ハルは言った。
「俺は軍人だ。月軍と戦う。戦争が終わればこんなことにはならない。月を倒して、こんな酷いこと終わらすんだ」
「ハル……」
「それでいいな、アキ」
月から来たアキに尋ねた。
「うん」
自分の故郷を倒すと語ったハルに、なんの戸惑いもなく賛同したのは何故か、アキは自問した。
『蒼』だから?
ハルからは全く邪念が感じられない。
憎しみがない
客観的に考えている。というのも少し違う気がする。
その先にある『希望』を見ているからか。
ここまで蒼く、希望に満ちた人だからか。
「待って」
歩きだした二人をレベッカが止めた。
「行くのならエリア0に行きましょう。力になれるはず」
(月軍、我が軍の包囲網を突破しつつあります!)
(ロサンゼルスの月軍主力艦隊も移動を開始したようです)
(カーター中佐の第9小隊全滅!駆逐艦グラハン轟沈!……第3小隊が退却の許可を願い出ています!)
旗色は明らかに悪い。
瓦礫の山のせいで陸上兵器が設置できず、アメリカ軍のお家芸、物量作戦が展開できないのだ。
WWにおいては圧倒的に引けを取るアメリカ軍に、WW戦で勝ち目は無い。
特に、あの黒い謎のWW。凄まじい火力で、アメリカ軍WWを蹂躙している。
「…エヴァンス中将、援軍は来ないのでしょうか……」
滝川はすがるようにエヴァンスに尋ねた。
「情報が錯綜しておる。暫し時間がかかるな」
「戦線はあと十五分も維持できませんわ!」
包囲網をかけた自分等が逆に窮地に追い込まれるとは……
「タキガワ」
誰にも聞こえないようにエヴァンスはそっと滝川に話し掛けた。
「この際、もう隠し事はすまい。貴殿等が求めるエシュトノート………」