拓海は一度由紀を抱き締めた後、目線をそらし薬箱のある場所に行った。
ふたりの間に会話はなかった。
ただ、由紀の腕には、複数の切傷があり、既に固まりかけている血がそこから流れ出していた。
聡は、薬箱から消毒液を取り出した。
「…ごめんね……さっきまでパソコンで仕事の続きしてて…気付いたら隣にあったカッターで…それで急に怖くなって部屋の中真っ暗にして…」
由紀の声は震えていた。
「まだ、お風呂入ってないよね?今から晩御飯の支度するから、その間に入っておいで。」
拓海は、いつもと変わらない口調で由紀を浴室へ促した。
そして、聞こえない程の溜め息を小さくついた。