「エシュトノートはここ(アメリカ)にはないわ」
「は?」
エリア0内にあったエレベータの中で、衝撃的事実がレベッカから語られた。
「全てコータロー・ツチダ准将の口実。貴方達をこのステーツ(合衆国)に送る為のね」
「ま、待ってくれ!」
ハルがたまらず遮る。
「口実?嘘って事か!?エシュトノートとかいうものも、全部?」
「それは少し違うわ」
レベッカは続けた。
「エシュトノートは確かに存在する」
エレベータが地下百階、最深部で止まった。
レベッカが手をそばの液晶画面に近付けると機械音のあとドアが開く。
「この“天使”と、私の頭の中に…ね」
そこに広がっていたのは馬鹿デカイ空間に場違いなたった一機のWW。
東京上空での死闘の末、ハルと野口がアキと共に捕獲した、あの赤い光を纏いし『白』。
「……ぁ」
アキが小さく息を洩らした。
「アキ?」
ハルに応えず、アキはつかつかと“天使”に寄っていく。
「こいつは修理しても動かないんじゃ…」
「それは足りないから」
レベッカはそう言って、ガラス張りの部屋に入っていき、スピーカー越しに語りだした。
「パパが…エシュト博士がいつも言ってた。『パパの研究には容れ物が足りないんだ。パパの技術を活かせる容れ物があれば、必ず皆がパパの研究を認めてくれるはずだ』って」
「研究……」
「このWWの名前はね……」
だが、レベッカがその名前を明かす事は出来なかった。
「“ミカエル”」
レベッカを遮ったのは、殆ど口を聞かず魅入っていたアキだった。
「アキ?」
「!……どうして」
レベッカはハルよりも信じられないという声だった。
「だって私のWWだったのよ?知らないわけないでしょう」
「でも覚えてなかったんじゃ……」
「ごめんなさいハル。知ってるっていったら嫌われると思ったから」
胸に手を押し当てアキは涙をこぼした。
「な、泣くなよ…な?」
決まりが悪くなって震える肩を抱いた。
しばらくして、顔を上げたアキはもう泣いてはいなかった。
「ハル」
涙の跡を拭い、ハルを見上げてアキはあおかぜの格納庫に安置されていたこの“天使”を見るたびに言いたかった言葉をハルに囁いた。
「私と一緒に翔んで」
アキの覚悟を知り、自分の決意を新たに、ハルはアキを抱き締めた。
「喜んで」