「ジル様、スターク達を向かわせました。直に良い報告をお伝えできましょう」
「そうか。あの4人なら安心だな。サマエル下がっていいぞ」
ヤハウェの若き王ジル・ド・レエ、弱冠18歳で王位に就いた才色兼備の少年。誰よりも平和を望む心優しき王として国民に支持され愛されている。
だがその裏で悪い噂も絶えない。
兄を殺し王位に就いた弟、狂った思想家。そんな噂を耳にするのも珍しくなかった。
「兄さん、もう少しだよ。もう少しで真の平和が手に入る」
若き王は眩しいほどに晴れ渡った空を見上げた。
城の最下層、カビ臭く薄暗い部屋に荒々しい息づかいと声が響きわたる。
「ジル・ド・レエを呼べ!!バフォメット!」
鎖でぐるぐる巻きにされ身動きのとれない男は額に青筋をたて怒り狂っている。
「それはできません。ここでイヴリース様を見張っているように言われていますので」
「お前は俺の直属の部下だろぉが!!さっさとしろ!ぶっ殺すぞてめぇ!」
聞く耳を持たないイヴリースに対し至極冷静に対応するバフォメット。
もう何年になるのだろうか。弟の手によって幽閉されたイヴリースはしばらく日の光を見ていない。
王であった自分がこんな酷い仕打ちを受けたのだ。その感情は怒るというより憎悪に近いものだった。
「バフォメット、お前はどっちの味方だ?…答えによっちゃあてめぇを殺して頭から爪先まで食い尽くしてやるからな」
バフォメットはそれを聞いてふっと鼻で笑った。
「それじゃあ『あなたの味方だ』と言うしかないじゃないですか。…でも私はどちらにしろあなたの味方ですよ。死ぬまでね…」
それを聞いたイヴリースはニヤリとし高らかに笑った。
「クククッ…お前は…本当にバカだな」
高らかな悪魔の声がカビの生えた壁をピリピリと震わせ木霊する。