「涼平、お前どの娘の事言ってんねん?」 俺がそう言った途端、涼平が俺の頭を小突くと、
「お前、そんなに付き合ってた彼女おらんやろ?俺達が知ってる限り、お前が付き合っとった娘って、由佳ちゃんだけやと思っとったけどなぁ。それともなんや、俺達の知らん娘でもおったんか?」 と笑いながら言われてしまった。
確かに生まれて二十六年間で確実に付き合っていたと言える娘は、河上由佳ただひとりだったが…
「でも、由佳ちゃんめっちゃ可愛かったのに、なんであかんようになってん?まさかお前、浮気したんちゃうやろな?」
「何でやねん!俺はこう見えても一途なんやで。浮気なんかするわけないやろ!」
原因は一人の女性に関する事だった。俺はその娘を忘れる為に、由佳と付き合っていたようなものだった。 しかし、由佳と深い仲になればなるほど、俺の心の中ではその娘の存在が、どんどん大きくなっていくのがわかった。
その娘のことを、悟志は知らないし、涼平にも話していなかったはずだ。
だから、友達にも言えない理由がある俺は、タクシーの中なのを忘れて、大声で喚いていた。