用を足してトイレから出てきた俺は、涼平を探して首を会場の方へと巡らした。
人並みより少しばかり背の高い俺は、背伸びをすると何とか会場全体を見渡すことができた。
会場のほぼ真ん中の方に涼平の姿を見つけると、俺は踵を降ろした。その時俺が軽い違和感を感じた瞬間、
「あっ…」
という聞こえるか聞こえないかというぐらいの、囁くような悲鳴があがった。
俺が当事者じゃなかったらきっと無視してしまうぐらいの声だった。俺は慌てて足を外すとその声の主に、 「ご、ごめん。人を探してて足下をみてなかったから。大丈夫?痛くなかった?」
と優しく声を掛けた。
彼女は真っ赤になって俯くと、俺とは目も合わさず、何も言わずに会場の中へと姿を消した。
その後ろ姿を目で追っていた俺は、何となく彼女とはどこかで会った事がある気がしていた。
(まさか・・・。彼女がこんな処におるわけないよな・・・)
唐突に思い浮かんだ、一人の女性の容姿・名前を打ち消しながら俺は涼平がいる方へと、入口付近でたむろする人を掻き分けながら入っていった。