その後も俺は、彼女が仲の良い女友達とは、楽しそうに話しているのに、男子生徒とは一度も話しているのを見たことがなかった。
そして、今日と同じような梅雨の中休みのある日。その日は天気予報では降水確率20%以下だったので、かなりの生徒が傘を持たずに登校して来ていた日だった。しかし予報は外れ、昼過ぎからしとしとと雨が降り始めて、下校時刻になっても雨が止みそうになかった。
俺は掃除当番に当たっていたから、教室の掃除をしてから部室でのミーティングに参加しようと、急いで下足室に向かっていたときだった。入口のところで、傘を忘れて途方に暮れている彼女を見掛けた。その頃には、彼女は男子生徒とは一切喋らないことがみんなに知られていたから、男子生徒で声を掛けるものはいなかった。いつも仲の良い女友達も、その時は見当たらなかった。
俺はチャンスだと思い、何も言わずに彼女に俺の折畳みの傘を押しつけて、急いで立ち去ろうとした。
この時期、俺がいつもカバンに忍ばせていたものだった。