「あの〜っ、お客さま。
……こんな事を申し上げるのは何ですけど…」
知恵の輪を解くように、必死になって、重いグランドピアノを我が家のリビングまでねじ込んでくれた運送屋さん。
「次は家を取り壊す時にして下さい」と頭まで下げられてしまった。
僕と薫は冷たい飲み物と汗拭きのタオル、それから、ねぎらいの言葉をすみやかに提供した。
「ふぅーっ、やっと人心地がついたって感じか」
「ふふっ♪」
「なんだよ、やけに楽しそうだな」
「このピアノ、実家にあるのと同じなんだもん」
「あ、なる程ね」
薫はいわゆるお嬢様育ちで、かなりの資産家の末娘である。
初めて「親御さんに挨拶でも」と薫の実家を訪れた時は、思わず目を疑ったほどの大邸宅だった。
「お嬢さま同士だから、咲季ちゃんもすぐなついてくれたのかな?」
「それがねェ、何か特別なご縁があるみたいなの」
「へぇ?気になるねそれ」
「ふふ、女の子だけの秘密よ」
考えてみると、僕らは二人ともホラー映画や怪談話が大の苦手なはずだった。
それひとつ取ってみても、幽霊である咲季とのつながりが出来たのは、〈世界の七不思議〉に匹敵する大いなる謎かも知れない。