信じられない破壊力だった。
右の手のひらに埋め込まれた水晶から光子エネルギーを拡散させて放つ。
自動追尾のレーザーがダークキャットを貫いていく。
後部座席のアキは少し苦い顔をしていた。
無理もない。今焼き払ったのは紛れもなくアキの故郷、月の兵士達なのだ。
「アキ…つらい…よな?」
振り返らずに尋ねてみた。
「うん。つらい」
俯きながらアキはポツリと言った。
「でも、今は…」
「わかってる。大丈夫」
振り返らなくてもアキが涙を拭ったのがわかった。
アキ、ごめん
心の中で謝って、操縦桿を握り直す。
三機のケイロンと一機のダークキャットが迫ってきている。
ダクキャットが(猫の爪)を突き出して襲い掛かってきた。
だが、量産型ダークキャットと、この[ミカエル]の間には決定的馬力の違いがある。
振り下ろしてきた腕を掴み、コクピットに拳を打ち込むとダークキャットは力を失ってニューヨークの瓦礫の山に墜ちていった。
続いて飛び込んできた三機のケイロンも最初の一機は回し蹴りで腹部を両断し、残りの二機は両手のひらから放った光子砲に顔面を撃ち抜かれ空中で爆散した。
今や、敵の注目は全て自分たちに向けられていた。
でもハルは片時も[奴]から目を離していない。
黄金を溶かしたかのようにに輝く巨大な月を背景に、WWらしからぬスラリと背筋を伸ばし、腕を組んでこちらを見下ろしている漆黒のWW。
「アポロ…」
後部座席のアキが呟いた。
お前を叩き潰したい。
[奴]がそう言ったように聞こえた。
真っ直ぐこちらに向かいあった[奴]の周りにはミカエルと対になる赤い光が渦巻き始めた。
ハルもミカエルの蒼い光を全開で解き放つ。
ニューヨークの空は真夜中にも関わらず真昼のように耀いた。
この光の中に飛び込んで来れる勇気を持った兵は地球軍にも、月軍のWWパイロットにもいない。
数秒間の睨み合いの後、まるでそれが初めから決まっていたかのように、
[白]と[黒]のWWは激突した。
目にも止まらぬ空中戦。
目で追えたのは二ノ宮吟次と狩野京一だけだった。
狩野はただ呆然とこれを見守り、
二ノ宮はこれから起こる、それももっと未来の事と照らし合わせ、それが磐石に進んでいる事に納得して笑いを隠せなかった。
ぶつかり合う度に夜空に太陽を創り出す二つの光源は破滅へのかがり火か。
我ながら上手い表現だと思った二ノ宮だった。