いきなり現れて戦局をイーブンに戻したこの白いWWはおそらく月軍最強のWWであるこの[ルシファー]と全く互角の戦いをして見せた。
「わかる……お前はあの時の男だろ?そして、そこにルナもいる」
数十mの間隔を取ってアポロは問うた。
(前から気になってたんだけどな、ルナじゃない。アキだ)
平然と言い放ち、もう一度戦闘態勢をとる。
なるほど
「聞こえるかいルナ、名前を変えて生きようが無駄だよ。まだわからないの?」
あの頃からそうだった。
ルナは誰よりも束縛されることを嫌って何度も“門”から逃げ出そうとし、そして、それが叶わず仕置きを受けていた。他の奴等は皆君の事を尊敬してた。
「いい加減諦めなよ。どこまで[蒼]を追い求めるつもりなんだ!?僕がいるじゃないか!ルナが頼るのは僕だけでいい。僕の[蒼]にすがればいいだろ!」
一気にまくしたられると、途端に喋れなくなる。
ルナの気の弱さは誰よりも知っているはずだった。
(アポロ…)
予想外のルナの呼び掛けにアポロは耳を疑った。
(アポロ、アポロには見えないだけよ)
アキ、喋る必要ないぞ!
そう男に言われながら、ルナは止めない。
(私は見えるわ。貴方の[色]が)
「そうだろうね」
(残酷な[赤]と……殺意の[赤]。でも、[蒼]はどこにもない。どうして?赤を黒が塗り潰して真っ黒。まるで月の影みたいだわ)
「………!」
絶句した。
ルナは自分の中に[希望の蒼]を見いだしていない。
誰よりも自分がルナを認め、ルナも自分を認めていたと思っていたのに。
裏切られた。
心の中の何か熱いものが、むくむくと音を立てて広がり始める。
殺してやる。
その何かに支配された心はもう鎮まる事を知らなかった。
自分でも驚く程の感覚だった。
素晴らしく心地よく、
あまりにも凶暴な……
殺意か
そう気付く前にアポロは黒いWW、ルシファーを突進させていた。
赤い光子エネルギーを全身から放出し、ルシファーは白いWWへ突っ込んでいく。
反応した[奴]は反撃するが、なんと弱々しい光か。
自分に届く前に赤に浸食され、四散する。
そのまま態勢を戻しきれない奴の顔面に膝蹴りを叩き込む。
「次はコクピットだ………ルナ、後悔して死ね」
今頃恐怖に震えているであろうルナに語り掛け、アポロはルシファーの両腕の光子圧縮口にエネルギーを貯めた。