その日、昼過ぎに急に降り出した豪雨は容赦なく茜(アカネ)に降り注いだ。
(昨日までカラカラの日照り続きだったのに…。)
火の元注意などと言う乾燥注意報まで出され、役所のものらしき車が火の取り扱いに注意するよう呼びかけていたばかりだった。
茜は高校生ながら料理も慣れたもので、一人暮らしの家の小さなキッチンがお気に入りスペースだった。
無論、茜はガスの管理やら火の元の管理やらは万全だった。
(隣町の火事もこの雨なら消火されるよ…)
今朝の火事のニュースを少し見たが、酷い燃え方をしていた。
そんなことをふっと考えていたため、いきなり耳に飛び込んできた鳴き声に茜は声を上げて驚いた。
「キャン!」
「わっ!…え?」
甲高い鳴き声が背後から聴こえる。
茜はびしょ濡れの髪を後ろで軽く縛ると、声の方に駆け寄った。
テレビドラマかなにかで見た光景。
ダンボールの中に、子犬がびしょ濡れで座っている。
茜が両手で抱き上げると、震えながら子犬は茜を見つめた。
「困ったな…こんなとこいたら病気になっちゃう。でもウチ、マンションだしな…ああ、もう、どうしよー!」
雨は追い討ちをかけ激しくなり、茜は自分の声も聞こえづらくなっていた。
(今日だけなら…。)
子犬をしっかり抱き締め、茜は一目散に駆け出した。