茜の足元には一粒の雫が落ちた。涙なのか雨なのかは俺にははっきりとはわからなかった。
「終わるって何が。」
俺は恐る恐る聞いた。なんとなくの意味はわかっていた。でも確認したかった。
「人生が…私はもう長くないの。」
また一粒の雫が茜の足元に落ちた。今度はしっかりとそれが何なのかを確認できた。その雫は茜の瞳から落ちた雫だった。「お母さんは何も教えてくれない。でも自分の体だもん。自分が一番わかるよ。もう長くないなって…」
茜は街を見たままそう呟いた。春の温かい風が無常にも心地よい。俺は意を決して茜に言った。
「そんなことはないよ茜さん。必ず良くなるよ。お母さんだってそう思ってるはずだよ。」
優しくでもしっかりと俺はそう茜に言った。俺は茜の隣に行き一緒に街を見ながら続けた。
「諦めちゃダメだよ。陸上でもそうさ。怪我をしても諦めないやつがトップになる。諦めるのは簡単なんだ。諦めるんじゃなくてそれをどう受け止めどう努力するかが大事なんじゃないかな。」
俺は街を見下ろしながら諭すようにそう言った。「わかってるよ。そんなことわかってる。別に死ぬことは恐くない。むしろ死にたいかも。」
茜は笑いながら言った。諦めた声だった。