私は、数多くの地上の楽園を目にして来ましたが、それは地上の楽園に過ぎませんでした。
正に天国でした。天国に一番近い島でした。
何もしない贅沢、ゆったりと時間が流れて行きます。真っ白な砂浜に腰を下ろし、波の音を聞きながら、遥か水平線の彼方に目を向けると、心地良い海色の風が体をすり抜けて行く。瑠璃色の空に、真っ白な雲がゆっくりと形を変えながら流れて行きました。
テレビもオーディオ機器も無く、聞こえて来るのは、波の音と風の音、小鳥たちの囀り、都会の騒音から隔絶された、真の楽園でした。
ウヴェア島に滞在した4日間は自然に身を任せる生活をしていました。時計は無く、腕時計もトランクにしまい込んで、夜が明けて、日が昇れば目を覚まし、日が落ちて眠くなれば眠る。波の音と風の囁き、小鳥の囀りを聞きながら、昼間は遥か沖を行く雲を眺め、夜は空一面に散りばめられた満天の星々を眺め、絶え間なく輝く流れ星の数を数え、すぐ手の届く木の枝には小鳥が何の警戒心も無く、体を丸く膨らませて眠っていました。時折目を覚まして、丸めた羽から顔を出して、キョロキョロと辺りの様子を伺い、私が見つめているのに気が付き、目と目が合うのですが、私に警戒心を持っていないのか、暫くボーっと眺めて、また羽に顔を突っ込んで寝てしまいました。その寝ぼけた様子が、とても心和みました。
周囲に外灯など人工的な灯りは全く無く、仄かな青白い月明かりだけで、体全体が漆黒の闇に抱かれて、何故か、心地よい安堵感が在りました。体の中から都会の喧騒により蓄積された、ストレスという心の汚泥が、じわじわと染み出して、私の心と体は透明に澄んで行き、大自然と一体に成って行く感じがしました。
『今、私は大自然と一体に成った。』
私の呼吸や鼓動が、打ち寄せる波と同調して、自分自身の存在が希薄になり、この漆黒の闇に融けて行く感覚を覚えました。
翌朝、バンガロー内のソファーでウヴェア島のガイドブックを読んでいました。しばらく読み進むうちに、眼鏡を掛けていない事に気が付きました。私は老眼が進行して、眼鏡無しでは、本などとても読めませんでした。ところが、ウヴェア島に来て2日目の朝には、本が読めるほど、視力が回復していました。目だけで無く、聴力も回復していました。
つづく