依代(よりよ)は額の汗を拭いながら手元の地図を見下ろした。
「・・・道、合ってる、よね?」
誰に言うわけでもなく、ぽつりと洩らす。 耳が痛くなるほど泣き喚く蝉たちに囲まれて、依代は一人立っている。
まわりは樹齢何百年の大木ばかりで、その合間を縫うように細い森道は続いていた。
太い杉の木の幹に打ち付けてある標識には、『繰り師村(くりしむら)』。
どうやら道は間違えてはいないようだ。
依代はふぅー、とため息をつくと、ずり落ちかけていた大きなリュックを背負い直した。
きゃしゃな体を包み込む黒いTシャツとジーンズ。
あごのラインで切り揃えられた、墨を流したかの様に黒い髪。
頭には帽子と、一見少年の様に見えてしまうが、今は帽子の陰に隠れている顔はなかなか整っている。