何か大切な事…大切な…何か…
思いだせそうで思い出せない。幼い頃に大きな飴玉を喉につまらせた時のような…苦しい。考えれば考えるほど頭がおかしくなりそうだった。
「美波さん、お薬の時間ですよ。」
ベットが自動で起き上がる。
「はい、お薬入れますから、お口あけてくださいね。」
「自分で飲むから、これ外してください。」
私は右手のベルトをがちゃがちゃ動かした。
「ごめんなさいね。まだこれ外してあげられないのよ。もう少し普通になれば、こんなものつけなくてよくなりますからね?」
「私、普通です。薬もいりません!」
「だめよ、飲まないと、ほら口開けてください。」
「飲みません、私絶対飲みませんから!」
「だめ、美波さん、ほら」
「嫌だ、嫌だ!」
気がつくと、私は看護婦の腕に噛み付いていた。
「きゃあ!この子はなんてこと!誰か!」
「私はただ…私…」
その時、無精髭の男が入ってきた。
「先生、美波さん、突然こんなこと…」
「おやおや、美波さん、威勢がいいですね。私は貴方の担当医の山本です。貴方の病気をよい方に向かわせるために、薬を飲んでもらいたいんです。いいですか?」
「…私は自分で飲めます。」
「そうですね。」
その山本という男は、にっこり笑い、申し訳なさそうに私に付けられたベルトを躊躇なくすべて外した。
私は素直に薬を飲むことにした。
「山本センセ、私はなぜここへ?記憶が…記憶がないんです。」
「そうですか、じゃあそれを取り戻すお手伝いをさせてくれますか?」
今日から私の記憶…大切な記憶…忘れたままにしてはいけない事…それを取り戻す日々が始まった。