「なんかさ……薄気味悪いよねぇ?ここ………」
戦闘の時とはまた違った様子で周りに神経を遣いながら、妖需が言う。
きー――――っ!
甲高い小動物のような声が、見計らったみたいに辺りに響いた。
静寂の中にこだまし、陰欝な空気がより一層増す。
後ろで妖需が立ち止まる気配がした。この程度の事で怖がるタマでもないはずなのだが。
不思議に思って振り返ると、蒼白で奮えている妖需が目に映った。
「おい………?」
意識をはっきりさせようとして、肩を揺すってみたが、妖需は力無く座り込んだきり、まるで反応が無い。
「おい、妖需……」
ふいに、苦痛で淀んだ瞳が、ディルを捉えた。
何かを訴えるように、こちらを見上げ、口を開いたその刹那。
「ぁ………っ」
何かに反応するように、体を強張らせ、獣のような呻き声を上げる。
「あぁあ゙ぁ゙ぁ゙あっ…!」
額には油汗が浮かび、腕や体ははっきり分かる程に震えている。
その肩に触れようとした時、初めて。
体が少しも動かせない事に気付いた。
背後に、人が立つ気配がした。
視線が粘ついて、気持ちわるい。気分が悪いから?これはただの汗?
全てが、重苦しい。
ディルは、まだ後ろの人物に気付いていないようだ。
(早く…早く………)
知らせないと。
ぎしぎしと、音がしそうなほどに固まりきった体に鞭打って、口を開く。
だが、阻まれた。【音】によって。
白衣の――
あれは、ここの科学者だろう。
フィレーネも、きっとあれのせいで、身動きが取れないに違いない。
もう、手遅れかもしれない。
薄暗いのでよく見えないが、心なしかディルの目の焦点が合っていないような気さえする。
白衣のポケットに、手が滑り込み―――\r
「うああ゙ぁあぁぁ゙あ゙ぁ゙あ゙あ…………っ!!!」
頭が割れたかと思う程の頭痛と吐き気に襲われ、意識が遠退く。
視界が白く、寸断された。