目を血走らせ弟子を叱り飛ばしていた浮世絵師の歌丸は仕方ないと思い直しフスマを開けた。
電衛門は開け放たれたフスマに一瞬ドキリとしたが現れたのが小柄で頭の禿あがった人のよさそうな老人で、しかも見覚えがある相手だったので胸を撫で下ろし………
『撫で下ろせるか?』
「その様子ではワシが何者か知ってるようじゃな。いかにもワシは人気浮世絵師の歌丸である」
歌丸は電衛門の横に座ると独り言のように続けた。「ワシは歌舞伎役者の絵姿を得意としておってな。歌舞伎役者の絵姿に関しては誰にも負けないと思うておるんだが……大奥からの注文が難しくてな、弟子に頼んで歌舞伎役者をかどわかしてきというわけだ。……歌舞伎役者ではなく歌舞伎者だったが……しかし時間がない。〆切までもう余裕がないんじゃ!この際顔は有名役者にすげ替えるとして、アンタ、ポーズとってもらえんかね?」
歌丸の口調は穏やかだが有無を言わせぬ迫力。
電衛門は背筋に悪寒がはしるのを感じた。
『俺様の変態センサーが危険だとしらせている。しかしどうにも出来んぞ』
ジリジリにじり寄ってくる歌丸から逃げようと後退る電衛門。
「大奥には、近頃やおいというものが流行っておるそうでの、なんでも腐れ女子とか呼ばれておるそうだ」『くされおなご?なんだそのネーミングは?』
「ワシも絵の参考に読ませて貰ったが……男が男にピー!してピー!な卑猥画はモデルなしでは辛いのじゃ分かるじゃろ?因みに今回は調教モノじゃったな」
…………………
『誰か助けて〜?』
電衛門の運命やいかに
〈つづく…んですまだ〉