取り壊しが決まった〈花の館〉小村邸から我が家に引っ越してきた幽霊の少女小村咲季、とピアノ。
咲季がどこから現れるのか、実は大いに興味があった撲たちである。
「あれ?ピアノの蓋、動いてないか」
「あら、本当。 何故かしらね」
二人がそのまま観察していると、キュッキュッと布で何かを磨く音が聞こえる。
やがてパタッと蓋が開き、楽器の手入れ用クロスを手にした咲季がヒョッコリ顔をのぞかせた。
『こんばんは。本日からお世話になります』
上半身をピアノから出した咲季が挨拶の後ペコリと頭を下げるのにつられ、僕らもつい、お辞儀をしていた。
リビングの間接照明に照らされた少女、小村咲季。
撲はその時初めて咲季のドレスが淡いピンクだと知った。
とっても可愛らしい、咲季にはよく似合う色だ。
やがて、それから数か月が過ぎた頃、咲季の面差しに時折フッとかげりが見られるようになっていた。
そんなある日、咲季が意を決した様に話し始める。
『お兄さん、お姉さん。
あたし、大事なお話があるの』
咲季はこわばった表情で、数日前に神様から伝えられたメッセージの内容を撲と薫に語り始めた。
『あたしね、……もうじき生まれ変わるんだって。
次の満月の日でみんなとお別れ…』
その先は言葉にならず、ただ涙を流し続ける咲季。
僕らにとっても、まさに晴天の霹靂(へきれき)というべき話に、二人は声もなく咲季を見つめていた。
少女の幽霊は、やわらかな光を宿した真珠の様な涙を、瞳からぽろぽろとこぼしながら、静かに消えていった……
次回、最終話