人生に悩んだある男が、顔を変えようと考えた。なんだか自分が嫌になって捨てたくなったからだ。顔を変えたら変われると信じて…。
しかし、顔を変えて別人になれたのに現実は何も変わらなかった。
何一つ変わらなかった。
男は顔を変えたことを後悔した。
そして、追い詰められた気がした。
もういいやなんて考えた。
男は自分は幸せとは無縁だと思いながら、いつの間にかふらふらと車道を歩いていた。
『何考えてんだ!気をつけろ!』幾つかの車がクラクションを鳴らし男をよけてゆっくりと通っていくが…
その声も車のクラクションでさえ男にはまるで聞こえていない様子だった。男は車道をふらふらと歩き続けた。
そのうち辺りは暗くなって、寒くなってそのうえ雨も降って来た。
どれだけの時間がたっただろうか、一台の黒い車が、男の歩く少し前でとまった。
車のドアが開き、中からは若い男が傘を開き素早く出て来る。
そして車道を歩き続けている男の方へかけ寄り、『大丈夫ですか?』と言うが早いか自分のさしていた傘を男の方へさしかえて歩道へと誘導した。
男はそのまま意識を失い歩道へ倒れた…。
男は気がつくと病院のベッドの上に寝かされていた。
『あっなんだ、生きているのか俺は…。』男は呟いた。
生きてることを残念がる男の小さい声に気付いたその病室にいた看護師が男の近くへ駆け寄る。
『気がつかれたのですね』と看護師は笑顔で話し掛ける。
男は『余計なことをしやがって…』と再び呟く
それを聞いた看護師は、『昨夜あなたを病院まで運んで下さった親切な方がいらしたのですよ。』と優しい声で伝える。
『あなたは、意識を失っていました。体も少し衰弱…』と話しているところへ医者がちょうど回診で病室へ入ってきた。
『目覚められたのですね、気分はいかがですか?痛いところは?失礼します』と言い医者は男の胸に聴診器をあてる。
『だから余計なことをするな…』男は再び小さな声で呟いたが医者は聞こえてない振りをした。体は回復していることとこのまま帰ってもよいと医者は簡単に説明をし病室を出ていった。
男は帰ることにした。身支度をして病室を出ようとした時、さっき話した看護師と目があった。