「さて…と、訴えの相手は将軍・瑠伊次郎久世の正室でマリ餡ころ網で間違いないか?」
約七に聞かれて頷く愛染と源外。
「大物だな、詳しい因縁を教えてもらえますか?」
メモをとりながらの九平に促され愛染は話した。
「おマリは元は小豆を入れる袋を網で作って大ヒットさせた袋問屋の娘でした」「ああ、有名な話だ。なんでもソコの藩主が大のアンコロ餅好きで、小豆はアンコロ餅のアンコロになる。そして網はメリケン語でネット。いご【餡ころネット】と名乗るがいいと名字を与えたとか」
「いかにも、その通り」
九平のウンチクに相づちをうって愛染は続けた。
「もう何年も故郷は景気が悪く飢饉に見舞われているというのに…おマリは……『飢饉?何それ?っていうかぁ?米無かったら餅食えばいいんじゃね?』などと吐き捨て、苦しむ民を救おうともせず贅沢三昧。少しばかりお仕置きしないとならないでしょう」
「……で、太夫あんたとの関わりは?」
約七が聞く。
「実は…幼なじみで。私は生きるために身売りを」
「ワシは……愛染の後を追ってきた。愛染にイジメテほしかった」
愛染の答えに続けて答える源外であった。
「ということは源外殿もマリ餡ころ網と幼なじみということですか?」
約七の言葉に頷く源外。「もっともワシはおマリには魅力を感じがな」
意味なく胸をはる源外。その時、静かに控えていた飛皿が低い声で告げた。
「何者かがこっちに来たようです。お静かに」
〈つづく……ってか〉