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『未來。今日はありがとう。』
彼女は一言そう呟き、僕を車で駅まで送ってくれた。
『ユキちゃん。きっと手術、成功するよ。』
『うん。あたしもそう思ってる。未來にもおまじないをしてもらったし。』
そう言って彼女は笑った。
『‥‥あんなのでよかったのかな。』
ユキちゃんと別れた後で、僕は急に弱気になってしまった。
『アハハ。ユキちゃん、ビックリして目をまん丸くしてたわよね。
でも、あの“ひとりあやとり”は、お笑いのネタとしては確かに全然面白くないけど、何故か未來のその強烈なキャラが、見る者を惹きつける何かがあるわよね。
ユキちゃんも喜んでくれたし、よかったわよ。』
『そう言ってもらえると、僕もやった甲斐があるよ。』
本当は少し後悔していた。
もっと真面目に言葉で励ましてあげたらよかった。
『ユキちゃん。本当は凄く怖いのよ。』
車を運転している彼女が、真っ直ぐ前を見据えながら言った。
彼女のその言葉に対し、僕は直ぐに返事を返す事が出来なかった。
そりゃあ半端なく怖いだろう。
僕がユキちゃんだったら“手術が嫌だ”って泣き出していると思う。
『エリカちゃんとユキちゃんて、どういう知り合いなの?!』
少しの間を置き、僕が口を開いた。
『先日ね、“小児ガンと戦う子供達”というドキュメント番組を制作した時の取材で、病院を訪れた時に知り合ったのよ。』
小児ガン――
幼くして、そんな過酷な運命を現実のものとして受け止めなければならないユキちゃんの事を思うと、
僕は胸に何かをつかえた様な――
何とも表現し難い息苦しさを覚えた。
『ユキちゃんの手術の日だけど、僕、エリカちゃんに電話していいかな?!』
『うん。勿論、あたしも手術の結果は未來に連絡するつもりよ。』
横から見る彼女は笑顔でそう答えた。
『ありがとう。何か‥来週までの数日間は多分、落ち着かないな僕。』
『うん。そうだね。』
僕達は、お互いに落ち着かない気持ちのまま、その数日間を過ごす事になった。