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ユキちゃんの手術の日の朝――
僕は目覚めた時からずっと落ち着かなかった。
――とは言っても昨夜は、ほとんど寝ていない。
ユキちゃんの事が気になって眠れなかったというのが本当の所だ。
一人っ子で育った僕に、もしもユキちゃんみたいな可愛い妹がいたら、どんなに楽しい事だろう。
そう思える程、僕はユキちゃんが愛おしく思えた。
だから今日の手術は絶対成功して欲しい。
幸い、腫瘍は比較的悪性度の低いものであるらしい。
しかし、出来ている部位が腫瘍を摘出するには、なかなか困難な場所なのだそうだ。
この病院の脳外科医は道内で屈指の名医だと言う。
ユキちゃんの年齢は十歳で、比較的体力もある。
絶対に、この手術は成功させて欲しい。
いや、成功する事はほぼ間違いない。
間違いないんだ!!
『中山どうした?!ぼーっとしてないで早く外回り行って来いよ。』
部長は今日も機嫌が悪い。
経理課の松浦アヤノとケンカでもしたのか。
そういえば、松浦アヤノも今朝からカリカリしている。
松浦アヤノは部長とデキている。
周りの者は、皆知っているが、それを知らないのは当人同士だけ。
いわゆる究極のバカップルである。
いいよな。お偉いさんはさ。
ユキちゃんには、こんなバカな大人にだけは、なってもらいたくないな。
僕は、これから行われるユキちゃんの手術の成功を祈りながら、得意先の外回りに行く事にした。
外へ出ると、今日は珍しく北海道の夏らしからぬ真夏日だった。