近くで、何か音がしたかもしれない。
わからない。
頭が割れそうだ。船酔いに似ているかもしれない。
目の前に誰かが立った、かもしれない。
わからない。
頭が――――………
「これを飲め。即効性だから、はやく効くはずだ。」
口の中に苦みが広がり、すぐに沢山の水を流し込まれた。
少し噎せながら、妖需にも同じようにしている、相手を観察する。
黒い、法衣。黒ってなんだよ黒って。変態か?変態なのかあいつ?
体も思考もまだ思うようには動かないが、本当に薬の効きが早いらしく、"彼"が敵でないのは何と無く判った。
涙と汗でひどい顔をした妖需が、横にされて身じろぎをする。
「ひどいな………暫く動けないだろう。この娘は、幻獣か?」
「………?」
こいつは何を言っているんだろう。
ゲンジュウ?って、幻獣の事か?
魔物や動物の元になった、太古の民。
高い知能を持ち、高い魔力を持ち、しかしそれに溺れて世界が二つに別れた、という神話付きの?
「あんた……頭打ったのか?病院行った方がいいぞ」
「信じる信じないは自由だが、お前達にあの音波が効いたという事実は揺るがんぞ。」
「音波ぁ?」
言っている事が無茶苦茶過ぎる。
妖需なんか、魔法も人並み以下だし、一番ヒトらしい奴だと思うのだが。
「………私が気付いたのは船にいた時―――調度、この街から8キロ位の地点でした。これは、いつから?」
妖需がけだるそうに体を起こし、張りの無い声で尋ねた。
「この街では、常に大型の物が作動している。家畜にも多少影響があるらしい。」
そいつの声は、どこまでも低く、落ち着いた無機質な声で、敵ではないだろうとは思いながらも、体の緊張を解く事ができなかった。
「私も此処にはうんざりしていてな。今なら出してやる。無論、仲間もだ。」
信用しろと?馬鹿げてる。
ディルがそう思ったのに気付いたのか、【彼】はおもむろに法衣のフードを持ち上げた。