「うん、まぁたまにはこういう所もいいな」遠くで鳥が鳴いている。 辺りは山で囲まれて、空気がすがすがしい。
依代は大きく息を吸うと、村に足を踏み入れた。
昔ながらの家が建ち並ぶ田舎ならではの風景に、依代は苦笑した。かやぶき屋根ばかりの田舎を想像していたが、それほど酷くもない。そこそこ人口も多いらしく、遠くには学校らしきものが見える。…しかし、夏休みの、しかも真昼であるにも関わらず、路上に人っ子一人もいないというのはどういうことだろう?
子供の声一つもしない。不気味なほど静まり返っていた。
「おおーい!!誰かいないか!?」
依代は声を上げてみるが、いらえはなかった。
「…なんなんだよ、ここは…?」
気味が悪くて仕方ない。 依代は帰りたくてならなかったが、リュックを背負い直し、あごの汗を拭うと歩き出した。
…されど、歩きに歩いても人に会う事はなかった。 依子代は歩き疲れ、村の真ん中にどーんと立ち、豊かな緑をおおい繁らせている見事な桜の木の根本に座り込んだ。時々吹いてくるそよ風に、頭上の葉が音をたてる。