殺す、喰う。とても彼女の口から発せられる台詞ではない。
「どの道私達が生き残るには地球人を根絶やしにするしかありません。彼らがあそこに居座っていては折角の限りある資源の無駄ですわ。まるでイナゴのように喰い尽くしてしまいますもの」
確かにこの戦争の理由は地球資源の獲得。だが、あくまで共存の範囲を出ることの無い、もっと好意的な物でなくてはならない。
「君が地球人を恨むのはわかる。だが、我々は元は地球人だぞ、母なる蒼き星、地球で共に生きた同胞なんだ」
エドワードは地球との戦争中にもこの理念を忘れた事はない。
蒼き星の下、我々は必ずわかりあえるのだと。
それを聞いたレイチュルは一瞬片方の左目を丸くし、その後、笑った。
「?」
ひとしきり笑った後、彼女は執務室の大きな窓の外を指差した。
「エドワード様、貴方には〔あれ〕が〔蒼〕に見えるのですか?」
エドワードは慌てて振り返ったが、窓の外に広がる月の白い大地の地平線には、ただ、いつものように蒼い地球が壮大に顔を出しているだけだ。
「何を…?」
すると、レイチュルはまた笑いだす。
「ふふ…そうでした。貴方には見えないのですね」
自分の知っている少女のような彼女とは少し違う。そう、影があるような…
「でも私には見えます」
レイチュルはそう言うと、ゆっくりと右目の眼帯を外した。
エドワードは三度絶句した。
潰れていると勝手に想像していた右目は健在。
しかし、黄金を溶かしたような瞳の代わりに、そこにはまるで血に塗られたような〔紅〕の瞳がこちらを見つめていた。
「真っ赤な星…じきに絶望に打ち拉がれる悲しい哀しい星の色」
「目が!」
「ルビーみたい?」
窓の外を見、すっと目を細めたレイチュルは何が起きたのか全くわからないエドワードに向き直り、囁いた。
「貴方にも見せてあげます。愛しいエドワード様」
向けられた右手には、拳銃が握られていた。
不自然に長くなった銃身はサイレンサーが取り付けられている証拠だ。
ヒュ
風を切る音が静かに執務室に響き、エドワードの心臓を貫通した弾丸は、背後の強化ガラスに当たって砕けた。
心臓から飛び出た大量の血液はガラスに飛び散って赤い華を咲かせた。
死の瞬間、エドワードは見てしまった。
血に染まったガラス越しに見た地球が赤いルビーのように鈍く輝いているのを。