「…リュラ」
お婆さんに小さく呟いたリュラは、その騒ぎの絶えないストリートを後にした。
その騒動はニュースや新聞にもなった。【正義の味方】などと過激な一面を飾っている。
「ったく…」リュラは呆れながら乱暴に新聞を机においた。「騒ぎすぎだっつうの。なんで人っ子一人助けたくれぇで…」
リュラは相当苛ついていた。この世界になぜ自分が生まれたんだ。クソッタレしかいないこの世界に、婆さん助けたぐらいで大騒ぎするこの世界に、どうして自分がうまれたのか、と。
二年前、自分の兄の霧崎 純也(きりさき じゅんや)が死んでしまった時、正直、何もしてやれなかった自分に腹立った。でもあの時兄貴は言っていた。『この世界に生まれて良かった』と。兄貴は何を考えているんだ。この世界には何か良いことがあるのか。自分はそれを見つける、と兄貴に約束したんだから、守るまで死ぬ訳にはいかない。よって、この世界にいなければならない。何たる苦痛だ。
兄貴の死因は病気だった。高い金支払って良い医者を雇って入院したのに、治らなかった。そのまま退院させられ、自宅療養となった。つまり、死ぬ時は自宅がいいだろうということだ。身勝手な医者に腹が立った。でもそんなことをしてる場合じゃなかった。兄貴を治そうと必死だった。だけど、病気には勝てなかった。
そんな過去を思い出してるうちに、珍走団が自宅の前を通った。女性の悲鳴が聞こえる。急いで階段を降りて、父母に一瞥をしてから外に向かう。その珍走団は「リュラはどこだぁーッ」と狂いながらも叫んでいた。どうやらお婆さんを蹴っていたあの不良の仲間らしい。
「おれはここだっつうの」
リュラは珍走団の前に立ちはだかった。
「お前がぁ、リュラァ…!」
珍走団のリーダーのような人がバイクを降りた。それに続いてのこりのメンバーもバイクを降りた。
「何か、用かよ?」リュラは血相変えてこちらに歩いて来るリーダーらしき人に言った。ポケットに手を突っ込む。
「全軍、リュラを殺せェェッ!」怒鳴り怒るリーダーらしき人は、もはや、人か?、と言いたくなるほどバットを振り回していた。その他大勢も手にはバットを持っている。
「へぇー。じゃあこっちは素手でやってやるぜ!」