周囲に何事かを訴えるかのような、明らかに異端である、黒い法衣。
何故黒い法衣でなければいけないのか、何故わかった。
影のなかで奇しくぬらりと光った赤黒い物体。
それは、他の何物でもない、魔物の角だった。
自らを律し、他人を寄せ付けない為に。
私でも、そういう選択をとったかもしれない。
「ここにいても、被験体として体を弄られるだけなのでな。ついでに逃がしてやる。」
ディルは不満気だが、今の出口が何処かもわからない状態から脱するには、もはやこれしか無いだろう。
「よろしくお願いします…」
ディルは妖需の言葉に何か反論しようとしたようだったが、妖需の顔を見て、舌打ちをした。
「フィレーネの居場所をご存知ですか?」
彼は黙って首を振る。
しかし、時間をかけて計画していたとしか思えないほど、妖需達は道をスムーズに進む事ができた。
「……何か仕掛けでもあるんですか?」
流石に不思議に思ったのか、頑なに彼を怪しんでいるディルの代弁なのかはわからないが、妖需は尋ねた。
「見張りに会わない事か?」
こくり、と妖需が頷く。
彼は、横目で様子を窺い見る、ディルを一瞥してから、ポケットから小さな箱を出した。
無造作にそれを手渡された妖需が、側面を見、裏側を見て顔色を変えた。
「………封魔香…!?じゃあ、見張りは魔物……?」
「半分正解。ただし、封じるられ、嫌悪をもよおすのはヒトの血だ。」
と、言う事は、だ。
俺達は、ヒトでないと。
「俺等に何を飲ませた」
嫌な予感というのは、当たらない割に何故か心を乱す物だ。
「一時的に、魔物の特性が強くなる薬だ。生物で確証済みだから問題ない」
うっっさんくっさ。
妖需が肩を竦めたのが、後ろからでもはっきりとわかった。
「あれ………」
何か音がしない、と妖需が小首を傾げる。
とか言ってる間に、何かが派手な音を立てながら高速で近づいて来る。
「来るぞ」
一行の緊張が、一気に高まった。