太陽兵器〔TheGodOfDay〕がニューヨークを焼き尽くして三日後。
突如、世界各国に宣戦布告した中華人民共和国はインドに侵攻。チベット付近で激戦を繰り広げていた。
さらに、カナダ軍の支援の名目で展開していた人民解放軍は国境を越えてアメリカ合衆国本土に破竹の勢いで進撃。
度重なる戦闘でボロボロの合衆国軍は為す術もなく敗走を重ねた。
〔アメリカ合衆国首都防衛師団(エリア0)司令官〕エヴァンス中将は各方面に分散していた残存兵力をワシントン郊外に結集。
国家存亡の危急に望もうとしていた。
人民解放軍、二万に対してアメリカ合衆国軍は三千。
数量的な絶対有利を確信した人民解放軍は怒涛の波状攻撃を繰り出す。
アメリカ合衆国軍は人海戦術の前に少しずつだが確実に防衛線を突破され始めていた。
(指令部、カーター隊長が殺られた!指示をくれ!全滅しちまう!)
(こちら第ニ一WW小隊、航空支援は無しなのか!?)
(畜生ォ!ギョーザヤローなんかに……ぐぁぁ!)
先程から聞こえてくるのは断末魔の叫びばかり。
滝川はため息をついて、開きっぱなしの通信回線を切った。
戦局は圧倒的に不利だ。
そして指令部は既に予備戦力の投入を決定しており、我々あおかぜ隊もあと三十分で出撃する。
しかし、あおかぜの兵力は先の月軍機動部隊、吟次との交戦で重傷を負った狩野と、意識不明のアキに付き添って魂が抜けたかのような卯月ハルを除いて、若山軍曹と野口上等兵の二人が駆る、くたびれた〔零戦〕のみ。
策を弄するというレベルではない。
「艦長、あと三十分で出撃です」
腕時計を確認してから荒木が縋るように滝川を見る。
「ええ」
「…艦長、エヴァンス中将に勝算はあるのでしょうか」
「え?」
「この戦い、まともにぶつかって勝負にならないというのは一目瞭然。しかし、一向に特殊作戦決行の命令も無い。このままでは何も出来ずに壊滅の憂き目を見ることに……」
確かにそうだった。エヴァンス中将この状況を傍観するような愚将ではないはず。
何か仕掛けても……
(艦長!大変!)
滝川の思考を停止させたのは看護室の手伝いに行っていたオペレーターの美樹からの艦内通信だった。
白衣を纏った美樹が画面の向こうで顔を青くしている。
(エ、エリア0の人が来て、ハルとアキを連れてくって、無理矢理…!)