「っもう?何処に行く気だよ?」
― 急な山道に、依代はすぐに息をきらした。
そんな依代を待つかの様に、猫は度々時々振り返っては尻尾を振る。
「くそっ?なめやがって?」
依代は足を必死に動かした。
しばらくそんなおいかけっこを繰り返していると、不意に前方から一軒の大きな和風豪邸が見えてきた。
石垣と屋根のついた門がそびえ立ち、家の屋根よりも高い木が、いくつも立っている。
「…で、でかい?」
依代は唖然として豪邸を見上げた。平安時代の貴族が住んでいた、寝殿造りのようだ。今にも門から牛車が出てきそうである。
> 「…あ?あたしの帽子?」
我に返って辺りを見回すと、さっきの猫がやはり帽子をくわえたまま石垣の上に座っており、尻尾を振っていた。
「…げっ?まさか、この家の中に入る気じゃあ…?」
依代は顔をひきつらせて呟いた。