「新しい方だよ」
店主はそう言うと半ば強引にその本を私に押し付けた。
私の手に無理矢理押し込まれたそれは くすんだ赤の分厚い まるで何かの文学作品の初版本を思わせる様な重みのある本だった。
新しい方?
私にはただの古い本にしか見えないけど・・・。
「いいから 最後のページを開いてごらん」
私は言われるがままに本の背表紙をめくった。
『29年目11月20日
6時30分起床。
最後の出勤 気が重い。
出掛けに母からの電話。
心配してくれるのはありがたいけど 朝は忙しいって。
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会う人会う人みんなが「おめでとう」と言う。
ちょっと面倒臭い。
17時12分同僚達から花束を贈られ退社。
タクシーに乗る』
「何これ…」
私は呆然とした。
「これ…今日」
そこに記されていたのは 私の今日の行動の一部始終だった。
その前のページも その前の前のページも ずっと前のページも そこにあるのは全て私の生活の記録だった。