想いのたけを、晶人はぶつけた。
マリアをかき抱き、おののいた唇に自らの唇を重ね…。
マリアは倒されたままもがいていたが、ふいに抵抗をやめた。
が、一瞬油断して腕をゆるめた晶人の顔に鮮血が散った。
マリアが落ちていた木片を、先の尖った部分を躊躇いなく振り下ろしたのだ。
が、それは逆に晶人を燃え立たせた。
晶人は悪鬼のように華奢な少女に覆いかぶさった……。
気付いた時には、マリアはぐったりと横たわっていた。
神社の裏で、捨てられた人形のように。
髪は扇のように広がり、ワンピースの裾は捲れ、驚く程ほそい脚があらわになっている。
あれほどの欲情をぶつけた対象であるにも関わらず、その痛ましい程しろい脚から、晶人は目をそらし…そのまま踵を返した。
震える両手で病室の荷物をまとめ、医師に気付かれぬよう、素早く病院を去った。
顔に走る惨たらしい傷を押さえて走った。
吐き気と目眩に翻弄されながら、親から譲りうけた莫大な財力で、人里離れたこの村に屋敷を建てた。
敢えてニュースや新聞にも目を通さず、ひたすらマリアへの懺悔に人生を費やした。
あんなにも美しかった彼女をぼろきれのように捨ておいた自分への罰として…視界の全てにマリアがいるように。
藤堂は話しながら、美樹の瞳を見つめた。
そこにあった怯えは消え…むしろ霧が払われたように僅かな輝きさえ映っている。
「…藤堂さん…。私はずっと…ずっとこの日が来るのを待っていました。私は…私が、伊瀬マリアです。マリアは私なんです」
藤堂は言葉なく、美樹を凝視した。
口は開いたまままるで死人のように青ざめている
「なにを…彼女は死んでいた。それに君は彼女ではない。…マリアとは似ていない…」
美樹は頷いた。
「ええ。あなたのマリアは幻想ですもの。マリアは…いえ、私はあんなに美しくはなかった。
あなたは懺悔でマリアを作ったと言いながら、実のところマリアを美化し崇めていたんだわ」
「そんな…いや、名前が違うじゃないか…」
弱々しい声を振り払うように断固たる口調で美樹の声が響く。
「本名は美樹。マリアというのは母さんがつけたあだ名よ。母さんはクリスチャンだったから。
でも父さんはどうしても母さんと自分の名前を一文字ずつ取りたかった。だから、あだ名でマリアと呼んでいたのよ
私も…「マリア様」に憧れていたからあなたに名乗ったの」